トルコ人女性アーティスト/記者、ゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)は、ネットに発表した作品が原因でトルコ政府に拘束され、2年9ヶ月22日の実刑判決を受けたことが2017年3月明らかになりました。
彼女は、クルド人が多く暮らすトルコ南東部マルディン県ヌサイビン地区に長期滞在し、トルコ国内メディアが報じないクルド人勢力とトルコ治安部隊の対立の現状を自身が編集を手がけるメディアで発信し続けていました。
トルコ政府とクルド人の衝突
トルコ治安部隊とトルコ国内に拠点を置くクルド人勢力の対立はオスマン帝国の時代に遡ることができるほど、長い歴史を経て、今日の複雑化した状況に至っています。
さらに近年のトルコ・クルド紛争はシリア情勢悪化とともに激化していると言われています。
特にトルコとシリアの国境部では、2015年7月以降トルコ治安部隊とクルド人勢力との激しい衝突が続いています。
シリアと国境を接しているトルコ南東部マルディン県ヌサイビン地区も例外ではありません。
人口約11万3千人のヌサイビン地区で暮らす多くはクルド人であり、クルド系住民や左派勢力が支持する“国民民主主義党”(HDP)への支持率が90%以上の地域です。
またヌサイビン地区は、シリア国内のクルド人地区で最大の都市カーシミールと国境を接しています。結果、シリア国内のクルド人勢力との連携によりヌサイビン地区のクルド人勢力とトルコ治安部隊の衝突は長期化することとなりました。
2015年7月から2016年12月31日までトルコ南東部で続いたクルド人勢力とトルコ治安部隊の衝突で一般市民を含む2000人以上が命を落としたと言われています。
また激戦区であったヌサイビン地区では1786以上の建物がトルコ治安部隊によって破壊されました。UNITAR観測衛星応用計画(UNOSAT)は、ヌサイビン地区では空爆による攻撃に行われていたことが予測されると報告しています。
こちらの画像、上がトルコ治安部隊によるヌサイビン地区制圧が開始される直前2015年6月21日の衛星写真、下が制圧後の2016年5月25日の衛星写真です。
この衛星写真からも明らかなように、トルコ治安部隊による攻撃はクルド人武装勢力にとどまらず一般市民にまで無差別的に行われていたと言えます。
ヌサイビン地区をはじめとしたトルコ・シリア国境地域では数週間にも及ぶ24時間外出禁止令が出され、この期間は食料、電気、ガス、水道といった一切のライフラインの供給が絶たれた状態でした。
国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR)の発表によると、この地域への国際機関や国内外のNGOのアクセスがトルコ政府により制限され、トルコ政府による情報開示が十分なされていない為に、衛星写真やこの地域を逃れてきた人々の証言が状況を把握するための手がかりとなっています。
逃れてきた人々の証言によると、多くの住民はトルコ治安部隊により強制移住させられました。また移住した住民が戻ってこないよう街全体が破壊されました。
2016年6月6日トルコ国内の新聞一社のみが、トルコ治安部隊がヌサイビン地区の制圧に成功したことを示す写真を掲載しました。
この記事が発表された直後ゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)はこの写真を彷彿される作品を発表しました。
この作品は反体制派ジャーナリストやメディアの取り締まりを強化していたトルコ政府の目に止まり、ゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)は7月21日カフェにいるところを逮捕されました。
彼女はこの作品をメディアで公開したこと、そしてクルディスタン労働者党の活動に関与した疑いで裁判にかけられ、2年9ヶ月22日の実刑判決が下されました。
彼女は以前から、トルコで暮らすクルド人のインタビューを記事として発表すること共に、クルド人の語りからインスパイアを受けた作品を発表していました。
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