中東 テロ シドニー パリ イスラム国

シドニー・オペラハウス(オーストラリア) 世界中のランドマークがパリのテロ事件以降フランス国旗色にライトアップされた

2015年11月13日に起きたパリの同時多発テロ事件は世界中に衝撃を与えました。
ISIL(イスラミック・ステート)によるものと考えられるテロは、遠い中東・アフリカ地域の問題であって自分には関係ないと思っていた人々も、あのパリでテロが起きるとは、いつ自分の身に起きてもおかしくないのでは?と「他人事」であったISILが「私たちごと」になった瞬間でした。

また2015年3月22日には、ベルギーの首都ブリュッセルで連続爆発事件がありました。
こちらの事件にもISILが関与していると考えられています。

ISILとは一体何者なのか?
誰が、なぜこのような事件を起こすのか?

フランスのテロ事件を起こした犯人の一人は、幾度もシリアのISIL支配下に行ったことのあるフランス出身の少年だったことが明らかになっている。

ホームグロウン(自国育ち)の人によるテロ事件の背景には、移民として育った若者の経済的そして思想的な不安定さが見え隠れしているという見解があります。
テロ実行犯のリーダーはモロッコ系ベルギー人だったとの発表がありました。

彼らがなぜISILに共鳴し、自らの命をかけてテロ事件を起こすのか?
彼らの生の声を聞く機会はなかなかありません。

イスラム国に参加するまでに彼らが抱いた葛藤、それまでの生活など、一人一人のストーリーに耳を傾ける事で、現在コントロールできない現象の根源が見えてくるのではないでしょうか?


体験したからこそ伝えられること

2014年夏ベルギー出身のモロッコ系移民二世の舞台監督イスマエル・サイディ (Ismael Saidi)は、悲喜劇「ジハード」 (Djihad)をベルギーで上演しました。

それから2年、「ジハード」 (Djihad)はベルギー政府に支持されベルギー国内の学校で教育の一環として上演されているほか、ヨーロッパ各国で今でも公演が行われます。

そもそもジハードとは、イスラム教徒の義務の一つであり、イスラム教の普及そして神のために尽くすことを言います。しかし、近年「聖戦」という意味でジハードの暴力的な側面ばかりに注目が集まっています。そしてISILが中東地域内外の若者を戦いに誘う口実もこのジハードなのです。
「私たちの戦いは世俗的な目的ではなく、神のために命を捧げるジハードであり、この道で亡くなる者は天国に行ける」

イスマエル・サイディは、イスラム教徒の移民コミュニティで育った若者たちがいかにジハードで魅了され、ISILに加担してしまうのか演劇の言葉を用いて多くの人に知ってもらう必要があると考え、悲喜劇「ジハード」 (Djihad)の脚本を書き上げました。

自身も一瞬、ジハードそしてISILの考え方に関心を示し、葛藤を経験したからこそ、ベルギーをはじめとする移民が多く暮らす社会でタブーとされるこのテーマと真っ向から向き合うことが早急に必要だと思ったと語ります。

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ストーリーは、ベルギーのムスリム・コミュニティで暮らすBen、Reda、IsmaelがベルギーからISILが支配するシリアまでの道中が舞台です。
Benは好きな女性がイスラム教徒ではないことから結婚が難しいと知り苦しんでいます。
Redaはエルヴィス・プレスリーが大好きだけど、これはイスラムの教えに反しているのか悩みます。
Ismaelはグラフィック・デザイナーとして仕事をしているが、この道でお金を稼ぐことはイスラム教の観点から間違っていないか悩みます。
イスマエル・サイディは、3人のストーリーを通して、ベルギーや他のヨーロッパ社会で暮らす移民の子供たちが置かれた不安定な境地を訴えます。

「ジハード」 (Djihad)は、3人が息苦しい現状から逃れるようにジハード(聖戦)に旅立とうとするシーンで始まります。
イスマエル・サイディは、それぞれのキャラクターの背景には、自分自身や友人の実体験があるからこそ、移民としてベルギーで暮らす若者の生の声を表現していると語ります。

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なぜシリアスでタブーとされるテーマに悲喜劇で挑むのか?

多くの人々が向き合おうとせず、日頃から抱いている先入観や偏見で固まってしまった移民ムスリムやジハードに対する概念を笑いはほどき、「対話」の空間を作ってくれるとイスマエル・サイディは言います。

彼は「対話」そしてタブーや偏見と向き合うことを「ジハード」 (Djihad)の目的としており、可能な限り上演後、観客とのディスカッションの場を作るようにしています。

また悲喜劇は、人間性を引き出す力があります。

実際に息子がシリアに行ってしまった母親は「ジハード」 (Djihad)を見て、「息子や息子と同じ状況の若者を”モンスター”ではなく、人間として描いているのでとても感激した」と感想を述べています。

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シリアスな問題を笑いで表現することで、多くの人にストーリーを伝えたいというイスマエル・サイディの想いは叶い、当初ベルギーにて5日間の予定だった上演が、今やヨーロッパ各国から招待されるようになりました。
最初は、そもそもジハード(聖戦)という言葉にすら過剰に反応を示し、取り上げることに否定的だったメディアや劇場が多かったとマネージャーは話します。世界中が得体の知れない恐怖を抱いている時こそ、本題から一歩引いて観察する事も大切であることを「ジハード」 (Djihad)は気づかせてくれます。

http://djihadspectacle.com
http://www.dw.com/…/jihad-comedy-causes-stir-on-…/a-18981838