かつてはウィリアム4世の騎馬像が設置されるはずだったが、資金不足のため計画が中断し、長年台座だけがポカンと取り残されたトラファルガー広場のフォース・プリンス(第四の台座)。
トラファルガー広場は、ナショナル・ギャラリーの入り口に続く階段が面しており、大きな噴水やゆったりとした空間は、ロンドンの代表的な観光名所です。
フォース・プリンス(第四の台座)がトラファルガー広場に設置されてから150年以上の年月が過ぎ、長きに渡る議論の末、特定の彫刻を永続的に設置するのではなく、数年に一度、話し合いやロンドン市民の投票により設置する彫刻を変えるプロジェクト「フォース・プリンス・プロジェクト」が1999年から開始しました。
設置される彫刻は1年〜2年の間隔で更新されます。
2005年に「フォース・プリンス・コミッション」と名を改めたこのプロジェクトは、これまで以上に社会的なメッセージが含まれた作品が設置されるようになりました。
「フォース・プリンス・コミッション」の第一弾(2005-2007)として展示された作品は、マーク・クインによる作品『Alison Lapper Pregnant』でした。手足の短い女性の像は、生まれつき腕がなく、脚も不自由なイギリス人アーティスト、アリソン・ラッパーです。
この作品は2012年ロンドンパラリンピックの際により大きなサイズで展示されました。
『Alison Lapper Pregnant』を皮切りに、イギリス国内外のアーティストが様々な方法で時代を象徴する作品を展示してきました。
世界中のSNSをやる人だったら気にする「いいね!👍🏼」をモチーフにしたブロンズ像が2016年9月から設置されました。
デイビット・ シュリグリー(David Shrigley) – Really Good
次に設置される彫刻の最終候補作品リストが2017年1月19日に発表されました。
数ある候補作品の中から2点作品が選ばれ、2018年から2020年まで順次トラフォルガー広場にて展示されます。
2017年4月上旬、この2点の作品が決定。
そのうちの一つが、IS(ダーイッシュ)の拠点都市イラク・モースルに紀元前700年から2015年まであった人頭有翼牡牛像ラマッスを想起させる彫刻です。
IS(ダーイッシュ)によって破壊されたラマッス像は、古代メソポタミア北部にあったアッシリア帝国の首都ニネヴァ(現在チグリス川沿いの現代の都市モースルの対岸に存在する)の門番の役割を果たしてきました。
バグダード出身の母親を持つアメリカ出身のマイケル・ラコウィッツ(Michael Rakowitz)は、トラファルガー広場に設置するラマッス像をイラク産デーツシロップの空き缶を加工して作りました。
イギリス市民の投票による設置が決定したこの作品「見えない敵などいるはずがない(The Invisible Enemy Should Not Exist)」は、マイケル・ラコウィッツ(Michael Rakowitz)が2007年より続けているシリーズ作品の一つです。
2003年のイラク戦争以降、バグダードにあるイラク国立博物館から約1万5000点もの所蔵品が略奪されました。
イラク戦争の終戦後、IS(ダーイッシュ)による文化遺産の破壊が目立つようになり、ついにはイラク国立博物館に次ぐ国内第二の博物館であるモスル博物館のコレクションが破壊されました。
これらの出来事を受けて、2015年3月、イラク国立博物館はIS(ダーイッシュ)によるコレクションの破壊に反発するべく12年ぶりに博物館の扉を開き、一般公開を再開しました。2003年以降に略奪されたコレクションの半数は未だに行方不明であると言われています。
マイケル・ラコウィッツ(Michael Rakowitz)は2007年以降、イラク国内で破壊もしくは行方不明になっている文化遺産をイラク国内の新聞や日用品を使って再現するプロジェクト「見えない敵などいるはずがない(The Invisible Enemy Should Not Exist)」をシカゴ大学オリエント研究所の協力のもと行なっています。
このシリーズ作品の一部が2013年広島市現代美術館で開催された『サイト—場所の記憶、場所の力—』展にて展示されました。
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