ベルリン国際映画祭金熊賞受賞を受賞したイラン映画『人生タクシー』日本で劇場公開!

filmTaxi

20年間の映画製作禁止!イランからの出国禁止!
と2010年イラン政府に命じられてから7年。

ジャーファル・パナヒ監督はそれ以降、『これは映画ではない』(2011)、『閉ざされたカーテン』(2013)と続けて制約下での映画製作の可能性に挑戦し続けてきた。

映画製作禁止令から3作目となる『人生タクシー』は第65回ベルリン国際映画祭(2015年)で金熊賞を受賞した。

舞台はテヘラン市内を走るタクシー車内。
タクシー運転手に扮したパナヒ監督は静かに、
乗客の会話をダッシュボードに置かれたカメラで記録し続ける。
乗客たちの会話には、閉ざされて見えてこないイラン社会の本質が詰め込まれている。

監督はなぜ映画を作れないのか?

そもそもなぜ、ジャーファル・パナヒ監督は映画を作ってはいけないのか?
その背景を知ることで、2009年以降のイラン社会の歩み、そしてパナヒ監督が“命がけで”製作したこの映画で伝えようとした核心が見えてくる。

2009年グリーンムーブメント

2009年6月12日に行われたイラン大統領選挙。
マフムード・アフマディーネジャードが当選したと発表された。
強力候補だったミール・ホセイン・ムーサヴィーの支持者はその結果に不服を申し立てた。
選挙に不正があったのではないか?

テヘランを皮切りにイランの大都市の通りという通りは、ムーサヴィー候補のテーマカラーである緑色のものを身につけてた支持者のデモ行進が行われた。

ムーサヴィー候補の色、グリーンがイラン全国を染め尽くすのは時間の問題だった。
学生が大半を占めていた抗議デモは連日続いた。

抗議デモは1979年にイランイスラム革命をもたらしたデモと同等の規模にまで拡大した。

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originally posted to Flickr as 3rd Day – The Green Protest Rally

映画業界の反応

ホセイン・ムーサヴィー大統領候補に賛同した著名人は少なくなかった。
彼らの言動の影響力が強いため、政府は彼らの活動の取り締まりに動いた。

映画監督も例外ではなかった。
なかでもジャーファル・パナヒ監督は2度逮捕された。

1度目の逮捕は抗議デモ勃発から1ヶ月半ほど経った7月30日。
デモの最中に命を落とした人々の追悼式に出席した際だった。

2度目は2010年3月1日、監督が自宅で家族や映画関係者と過ごしている際に逮捕。

2度目の拘留は長引き、カンヌ国際映画祭やベルリンベルリン国際映画祭、キアロスタミ監督といった国内外の映画業界が反応を示した。
2010年5月16日拘留が続くパナヒ監督は、ハンガーストライキを開始することで意思を表明し続けた。

2010年5月25日、以下の判決と共に監督は釈放。

映画製作・脚本執筆・国内外のメディアとの接触・イランからの出国を20年間禁止。これらに違反した場合は6年間の懲役を科される。

現在もこの判決の下、監督は映画を作ることができないのだ。
そもそも映画製作とは何なのか?
究極な状況に立たされた監督は『これは映画ではない』(2011)、『閉ざされたカーテン』(2013)、そして『人生タクシー』を世界に発表することで、この疑問に挑戦し続けている。

映画のキーポイント

20年間の映画製作禁止に違反した場合、再び拘留される可能性のあるなか映画を作り、
国外に発信し続ける監督。
彼は限られた環境の中で意欲的に“映画作家”として生き続けている。
新作『人生タクシー』にはどのようなメッセージを託したのだろうか。

政治、思想、社会の話題を相乗りタクシー(公共の場)で知らない者同士が意見を交わすことが日常的に行われるイラン社会。
次々に乗ってくる乗客たちは、それぞれの人生の一部をタクシーに設置された小さなカメラの前で語っては消えてゆく。彼らの人生は言葉を失った監督の代わりに語っているようだ。

小学生の姪、ハナ

一番の監督の代弁者である姪のハナ。

彼女は学校の授業で短編映画を作る宿題を出されたのだが、その映画の題材に悩み学校にタクシーで迎えにきた叔父であるパナヒ監督に相談する。
彼女はタクシーの窓から見えるテヘランの光景やタクシーに乗ってくる人々から宿題の題材を思いつくが、それらは学校で教わった「上映可能」な映画の条件にそぐわない。
「自主規制」しない限り上映可能な映画を作ることができないのでは?

ハナは上映可能な“映画”と“現実”の間で困惑する。

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彼女の挑戦は検閲の壁と直面し続けてきた監督自身を鏡のように映している。

ハナはイラン国外に出国できない叔父パナヒ監督に代わって金熊賞のトロフィーを受け取った。

TaxiHana

バラの女性

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次から次へと乗ってくる乗客の中でも一際存在感のあるバラを持った女性。

1988年にはネルソン・マンデラが受賞した、人権と思想の自由を守るために献身的な活動をしてきた個人や団体をたたえる賞で知られる「サハロフ賞」をジャーファル・パナヒ監督と共に2012年に受賞した彼女は、弁護士で人権活動家のナスリン・ソトゥーデ。

彼女は人権活動家などの弁護を続けていたことやグリーンムーブメントへ賛同が原因で、2010年9月4日に拘束された。

2013年9月18日に釈放されるまで彼女は幾度となくハンガーストライキを繰り返すことで、彼女に唯一残された方法で意思表明を続けた。
彼女のハンガーストライキは最長で49日間続いた。

さらにこのシーンが撮られた数日後に政府から3年間停職処分が宣告され、
彼女はイラン弁護士連合会館の前で座り込みを開始した。

監督とは違う方法で、しかし同じ方向へ前進するために戦い続けている彼女の作中での言葉に是非とも注目をしてほしい。

彼女はパナヒ監督についてこのように語った。

『人生タクシー』を通してパナヒ監督は、どのような過酷な状況も芸術そして製作への意欲を抑制することはできないこと、そして好きなことを貫く愛の強さを世界中に示してくれた。


2017年4月15日より東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開!

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