チェリストのヨーヨー・マが世界共通の言語としての音楽の可能性を探る目的で、1998年に立ち上げた「シルクロード・プロジェクト」そして音楽ユニット「シルクロード・アンサンブル」の活動を追ったドキュメンタリー映画『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』

『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』では、「シルクロード・アンサンブル」のメンバーである中国、イラン、シリア、ガリシア(スペイン)出身の音楽家が、音楽を通して自分自身のアイデンティティを再発見する過程を追っています。

 

yoyoma

 

15年以上アメリカで暮らしているシリア出身のクラリネット奏者キナン・アズメ(Kinan Azmeh)は、ヨーヨー・マとのプロジェクトを通して自分にとって「家」と呼べる場所はどこなのか、自問自答します。

シリア出身のクラリネット奏者キナン・アズメ(Kinan Azmeh)

ダマスカス出身のキナン・アズメはダマスカス大学で音楽を専攻した後、ジュリアード音楽院(ニューヨーク)での進学のためにアメリカに移り住みました。アメリカへの留学を決意した時、彼はアメリカとシリアを往来するつもりでいました。その目的で留学前にアパートをダマスカスで購入したと語る彼は、その後の予期せぬシリア情勢の混乱のためシリアで暮らすことが遠い夢へと変わってしまいました。

Kinan Azmeh

自分で「家」ではなくなった故郷シリアの人々に対して自分ができることは何なのか、自分に問うことで、アメリカ在住シリア人としてのアイデンティティを構築しようとします。
その活動の一環として彼は、アメリカで知り合ったシリア人アーティスト、ケヴォーク・ムラド(Kevork Mourad)と共にアートプロジェクトを立ち上げました。

Home Withinー内なる家ー

アズメが共にプロジェクトを立ち上げたアーティスト、ケヴォーク・ムラド(Kevork Mourad)はアレッポ(シリア)のアルメニア人居住区出身。アルメニアで学んだ後、現在はニューヨークを拠点に活動しています。

アルメニア人は少数民族がゆえに、迫害そして強制移住の問題と戦ってきた歴史があります。100年前にオスマン帝国で起きたアルメニア人大虐殺では150万人あまりの普通に暮らしていたアルメニア人が殺害されました。

アルメニア人アーティストとして、この歴史を無視しすることはできない

Kevork Mourad

シリアの内戦が本格化した2011年春以降、シリア国民の約半数が隣国やヨーロッパへ避難。シリアでの生活を諦めざるおえなくなったキナン・アズメとケヴォーク・ムラドは映像作品「Home Within」を2012年3月に発表。

毎朝、パソコンを開き故郷の新たな悲しいニュースを知る

 このような毎日から生まれたキナン・アズメ作曲の「A Sad Morning, Every Morning」とケヴォーク・ムラドのドローイングによる60分の映像作品「Home Within」。
アズメは本作品で、国内外で過酷な状況で暮らしているシリア人の言葉にすることのできない心の奥底の感情を表したと語ります。

彼らはシリアの人々が抱いている複雑な感情を共有する目的で、アメリカをはじめ、様々な国でパフォーマンスを行なっています。さらに慈善団体の協力のもと、難民キャンプで暮らすシリア人を支援する活動を行なっています。
ケヴォーク・ムラドは、難民キャンプとシリアの人々との交流を通してさらに作品が発展していると語ります。