イスラム教徒の移民として生きる悲喜劇「ジハード」 (Djihad)@日本レポート

イスラム国(IS)の名前をニュースで聞くようになってどのくらい経つのでしょう?
そして難民ー特に中東地域ーが知らない土地やキャンプで暮らすようになって何年経つのでしょう?

2016年にこのサイトで紹介したベルギー出身のモロッコ系移民二世の舞台監督イスマエル・サイディ (Ismael Saidi)の悲喜劇「ジハード」 (Djihad)が2018年、日本で上演されました。

初めてベルギーで上演されたのが2014年夏だそうです。あれから4年経った今でも、まだ難民やテロの問題が解決したようには思えません。
しかし、コツコツと演劇という形で伝え続けることの力強さ、意義そして重要性を「ジハード」 (Djihad)を生で見ること、イスマエル・サイディ (Ismael Saidi)の言葉を直に聞くことで痛感しました。


イスマエル・サイディ (Ismael Saidi)は、高校の同級生がIS(イスラム国)の戦闘員としてテレビに映っているのを見たのがきっかけで、この戯曲を書くことになりました。

またフランスの政治家マリーヌ・ル・ペンが、フランスで暮らす移民二世が、フランスに戻ってこないのならば戦闘の為にシリアに行っても構わないと発言したことが、戯曲を書くことにあたってイスマエルの背中を押しました。

2014年9月に書き上げた戯曲を役者に読んでもらい、賛同を得たものの、タイトルが「ジハード」(“神の道のために努力/奮闘する”という意味であるが、近年異教徒を狙った聖戦という間違った認識が広まっている)であるため、上演させてくれる劇場を探すのに苦労しました。また、上演を承諾してくれた小劇場が見つかっても、宣伝のためのポスターを貼ってくれる場所がなかなかありませんでした。

初めての上演を果たした3週間後に、フランスでシャルリー・エブド襲撃事件が起きます。それを機にフランスの文化大臣が、フランスの学生向けに「ジハード」を上演してほしいと依頼してきたのです!

普通、そのような事件が起きたら、暴動などを阻止するために上演を自粛してほしいと言われそうですよね。
しかし、“臭いものには蓋をする”かのような自粛を求めるのではなく、真正面からこの問題と向き合うことを選択したことは素晴らしいです。

イスマエルは学生向けに上演するにあたって以下の条件を出しました。
1)学校では上演しない。学生が劇場に来ること。
2)移民二世の学生だけに向けて行うプログラムならば、引き受けない。
3)我々はあくまで劇団であるので、この作品を政治的目的だけで上演するのは断る。また、最低500人は生徒を連れて来ること。

このような活動を経て、これまで約42万人が「ジハード」を見ています。イスマエルは、上演後必ず討論をすることにしています。日本での上演後も役者、イスマエル、専門家などを交えて討論が行われました。

これまで「ジハード」は様々な言語に訳されてきました。世界中にこの戯曲が広まっている理由として、テーマが移民二世やイスラム教に絞られているのではなく、より普遍的なテーマを物語っているからだとイスマエルは考えています。

“あらゆる理由で夢を諦めなた人々”がこの戯曲のシンプルなテーマなのです。

実は、19歳から34歳まで警官であったイスマエルはアイデンティティについて面白い持論を語っていました。

「アイデンティティはラザニア。いろんな層があって、1つでもなくなれば美味しくなくなる」

ベルギーで移民二世としての暮らしにくさを理由に“犠牲者”として自身を認識するのではなく、モロッコ系であり、イスラム教徒でありながらキリスト系の学校で教育を受け、フランス文学を学んだ自分のアイデンティティに誇りを持っているイスマエル。
学生向けの上演でも、学生たちに移民は犠牲者であるという先入観を捨てるように呼びかけました(特に移民者自身が!)。

さらにイスマエルは“差別”のトリッキーな構図について語りました。マイノリティに対する差別は一方通行ではないと言いました。例えば、あるコミュニティ(社会)でマイノリティであるイスラム教徒が差別を受けているとすると、その逆も存在する。すなわち彼は、マイノリティによるマジョリティに対する差別、レイシズムも無視してはいけないと指摘しました。

彩の国さいたま芸術劇場にて