作家の声を届けるインタビュープロジェクト
Art with Distance 3
//パレスチナ出身のマラキ・マタール//
インタビューシリーズArt with Distanceではコロナウィルスによる世界的パンデミックの中どのように制作活動を続けているのか、中東地域にゆかりのあるアーティストの声をお届けしてきました。今回はArt with Distanceの特別エピソードです!2021年5月10日から12日間に及びイスラエル政府はパレスチナ自治区ガザ地区に対する空爆を行いました。この紛争の最中、ガザ地区で暮らしているアーティストMalak Mattarの声をお届けします。
2014年の夏ガザ地区では51日間にわたってイスラエル軍による激しい空爆と地上からの攻撃が繰り返されました。この攻撃では避難所や学校そして病院など一般市民が空爆を逃れて身を潜めていた施設にも爆弾が落とされ多くの子供の命が奪われました。13歳だったMalakは、自分と家族の命がいつ奪われてもおかしくない状況の中、その恐怖をどうにか和らげるために学校から支給されていた水彩画セットを初めて手に取りました。その日以来、彼女はガザ地区でくらす女性たちの姿を描いてきました。アーティスト活動を続けるには学校でいい成績を取り、国連の支援で外国に行くしかないと考えた彼女は高校生の時ガザ地区でトップの成績を収め現在はトルコの大学に在学中です。今回の空爆が始まる数日前、彼女はビザの関係でガザ地区の家族の元に戻っていました。
このインタビューはイスラエル政府が5月21日現地時間午前2時に停戦を発表した翌日の昼過ぎに行われました。
この関連コラムではポッドキャストのインタビュー内容をより良く理解していただける内容になっています。ぜひインタビューと合わせてお読みください。
これまでのパレスチナとイスラエルの紛争とナクバについて
2014年7月、51日間にも及ぶ紛争がパレスチナ自治区ガザ地区で起きました。この紛争は2014年ガザ侵攻として知られています。それまでにも2006年と2008年にもガザでは紛争がありました。マラキは、この3つの紛争に加え2021年5月に12日間続いた空爆を合わせて4度の紛争を経験してきました。
これまでの紛争で多くの市民の命が奪われました。マラキはいつ自分たち家族に攻撃が迫ってくるか、命が奪われるかわからない状況の中どうにかその恐怖を和らげるために未開封で手をつけていなかった学校からもらった水彩画セットを手に取ります。
当時彼女が描いた絵がこちらです。
少女が左手に握りしめているのは、彼女の先祖が暮らした村にあった家の鍵です。後にナクバ(アラビア語で大災厄を意味する)として知られることとなる1948年5月18日イスラエルが現在の地で建国宣言をするとともにそれまでこの地で暮らしてきた70万人以上のアラブ人が難民となり迫害されました。彼らはいつか家に帰れると信じて家の鍵を固く握りしめていたのです。マラキの曽祖父母も同じです。彼らが握りしめていた鍵は今ひ孫であるマラキに託されましたが、いまだに世界最大の刑務所と言われているガザ地区を出ることのできる見込みはありません。
口を固く閉ざした女性たちの姿
マラキの作品には多くの女性たちが描かれています。彼女たちは口を閉ざし力強い眼差しで語られてこなかった女性たちによるパレスチナの歴史を私たちに訴えています。
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パレスチナでは女性たちの姿はしばし抑圧され社会で居場所のない存在としてメディアを通じて描かれてきました。しかし彼女たちの多くは男性と同じように働き家族を養えるように努力しています。その努力の裏には、パレスチナが抱える特有の問題があります。それは、パレスチナでは男性は空爆などの攻撃で命を落としたりイスラエル警察に拘束されてしまう危険をいつも抱えています。なのでパレスチナ社会において女性たちは多くの責任を背負っているのです。
一方で、ドメスティックバイオレンスや名誉殺人の問題も少なくありません。名誉殺人とは、親族の名誉を汚したとみなされる行為をした女性を殺害する風習です。地域によってはまだこの風習が残っておりガザ地区でも起きているそうです。マラキはパレスチナ社会における女性の人権を見直すべきだとして、2019年に若干21歳で殺されたパレスチナ人女性Israa Ghrayebのポートレートを描きました。彼女は婚約する日の前日に婚約者とのセルフィーをSNSに投稿したことが原因で親族に殺害されました。この事件を受けてガザ地区をはじめとしたパレスチナ全土で名誉殺人に反対するデモ活動が活発に行われました。
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スイカの絵はパレスチナのアイデンティティを主張するモチーフ
パレスチナでは、生活必需品はもちろんのことアート作品を制作するために必要な材料はイスラエル政府の管轄のもと入ってきます。マラキによると近年ガザ地区にある画材屋がなくなってしまい画材を調達するのがさらに困難になっているそうです。
またアート活動をパレスチナで続ける上で直面する問題は画材だけではありません。検閲の問題とも常に隣り合わせです。マラキは政治色の強いと受け取られる可能性のある作品はガザ地区から外に発送することができないと話します。ガザ地区から発送される全ての物がイスラエル政府にチェックされる状況において自己検閲がどうしてもおきてしまいます。
パレスチナ現代アートと検閲の問題は近年始まったことではありません。1980年代に活躍していたパレスチナを代表するアーティストsuleiman mansour、Nabil Anani、Isam Baderがパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区にあったアートギャラリーGallery 79*で開催した展覧会にパレスチナの国旗を用いた作品を展示したところイスラエル政府に拘束され今後パレスチナの国旗と同じ色である白、緑、赤そして黒い色を用いた絵を描くことが禁じられました。Isam Baderはスイカは描いていいのか?と反論しました。その返事はノーでした。スイカの絵すら政府的であると捉えられ禁止されたのです。このようにパレスチナの現代アートは常に検閲と隣り合わせなのです。
seeME//Podcast// episode 3 をお聞きいただきまた関連コラムを読んでいただきありがとうございました。
*ポッドキャストをまだお聞きでない方はこのページの一番下にスクロールしていただきましたらお聞きただけます。
今回インタビューに答えていただいたMalak Mattarはインスタグラムで最新情報を配信しています。また彼女のサイン入り公式コピー作品をetsyから購入することができます。
*なぜコピーなのか?それは本編でも触れたようにガザ地区からオリジナルを発送するのがとても困難な状況なのでサイン入りコピーをイギリスにいる知人に託して販売をしてもらっています。ご購入していただいた売上金は全てマラキのアート活動にあてられます。彼女の活動に共鳴していただけましたら作品を購入することでサポートしていただけましたらとても嬉しいです。
etsyのリンク:https://www.etsy.com/shop/MalakArtStore
instagramのリンク:https://www.instagram.com/malak_mattar_artist/
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