今日の「気まぐれコラム」は、毎年イギリスの現代美術雑誌Art Reviewが発表するその年アート界で最も影響力のあった100組のランキングPower 100に選ばれた中東地域にゆかりのある2名を取り上げます。


57位に選ばれたのは、シャルジャ首長国の首長Sharjah Sultan bin Muhammad Al-Qasimiの娘で、シャルジャ・アート・ファウンデーション(SAF)のディレクターであるフール・アル・カシミ氏です。

彼女は10年以上にわたる財団の歴史の中で、国際的に巡回する大規模な展覧会、ビジュアルアート、映画、音楽のアーティストやキュレーターのレジデンシー、新進アーティストへのコミッションや制作助成、子供から大人までを対象としたシャールジャでの幅広い教育プログラムなど、継続的に財団の範囲を拡大してきました。2003年、アル・カシミはシャルジャ・ビエンナーレ6を共同開催し、その後もビエンナーレ・ディレクターを務めています。アル・カシミ氏のリーダーシップのもと、シャルジャ・ビエンナーレは、現代アーティスト、キュレーター、文化プロデューサーにとって、国際的に認知されたプラットフォームとなりました。この分野での彼女のリーダーシップにより、2017年には国際ビエンナーレ協会(IBA)の会長に選出され、IBAの本部がシャルジャに移されました。アル・カシミは、SAFでの役割を補完するために、The Africa Instituteの会長と、2019年11月に第1回目を発足させたSharjah Architecture Triennialの理事長も務めています。アル・カシミは、2020年1月にパキスタンのラホール市で開催された第2回ラホール・ビエンナーレのキュレーターを務めました。


98位に選ばれたのは以前seeMEのコラムでも取り上げたトルコ在住クルド人アーティストでありジャーナリストであるゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)氏です。彼女はネットに発表した作品が原因でトルコ政府に拘束され、2年9ヶ月22日の実刑判決を受けたことが2017年3月明らかになりました。彼女の逮捕の背景には長い歴史の中で複雑に絡み合ったトルコ政府とクルド人勢力の対立がありました。彼女が逮捕された経緯は以前seeMEのコラムで取り上げていますが、ここでももう一度振り返ってみましょう。

2015年7月以降トルコ治安部隊とクルド人勢力との激しい衝突が続いていました。シリアと国境を接しているトルコ南東部マルディン県ヌサイビン地区も例外ではありません。人口約11万3千人のヌサイビン地区で暮らす多くはクルド人であり、クルド系住民や左派勢力が支持する“国民民主主義党”(HDP)への支持率が90%以上の地域です。またヌサイビン地区は、シリア国内のクルド人地区で最大の都市カーシミールと国境を接しています。結果、シリア国内のクルド人勢力との連携によりヌサイビン地区のクルド人勢力とトルコ治安部隊の衝突は長期化することとなりました。

ヌサイビン地区をはじめとしたトルコ・シリア国境地域では数週間にも及ぶ24時間外出禁止令が出され、この期間は食料、電気、ガス、水道といった一切のライフラインの供給が絶たれた状態でした。逃れてきた人々の証言によると、多くの住民はトルコ治安部隊により強制移住させられました。また移住した住民が戻ってこないよう街全体が破壊されました。

2016年6月6日トルコ国内の新聞一社のみが、トルコ治安部隊がヌサイビン地区の制圧に成功したことを示す写真を掲載しました。

この記事が発表された直後ゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)はこの写真を彷彿される作品を発表しました。

この作品は反体制派ジャーナリストやメディアの取り締まりを強化していたトルコ政府の目に止まり、ゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)は2016年7月21日カフェにいるところを逮捕されました。そして彼女はこの作品をメディアで公開したこと、そしてクルディスタン労働者党の活動に関与した疑いで裁判にかけられ、2017年3月24日の裁判で2年9ヶ月22日の実刑判決が下されました。彼女は刑務所にいる間にジャーナリスト仲間の協力のもとフリーアジェンダダンジョン(Free Agenda Dungeon)という新聞を発行しました。それを受けてトルコ政府は彼女がトルコ語以外で書く手紙を発送することを禁止しました。2018年3月16日、バンクシーはニューヨークにゼフラの不当逮捕を訴えるグラフィティーを描きました。バンクシーが作品を発表した壁はThe Houston Bowery Wallという名で知られこれまでキースヘリングやオベイのアパレルブランドでもよく知られているシェパード・フェアリーをはじめとしたストリートアーティストたちが作品を発表してきた壁でした。彼はこの歴史的な壁を使ってゼフラの早期釈放を訴えるとともに世界がクルド人の人権に目を向けるように仕向けました。ゼフラは2019年2月24日、600日刑務所で過ごしたのちに釈放されました。

彼女は釈放後、刑務所での体験をもとにしたグラフィックノーベル“Prison N° 5” を出版。2021年8月ベルリンにあるマキシムゴルキ劇場でこのグラフィックノーベルを元にした個展を開催しました。この展覧会では絵を描くことが禁止され画材を与えられなかった刑務所の中で服の切れ端や食材などを使って描かれた作品も展示されました。

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