「気まぐれコラム」は短い時間で中東地域のニュースをアートを通して知ることができるミニプログラムです。今日はイスラエル政府がアメリカをはじめとした世界各国の反対を押し切ってヨルダン川西岸パレスチナ自治区にユダヤ人入植住宅を建てる計画を承認したニュースとこの問題をテーマにしたアート作品です。

これまでイスラエルによるヨルダン川西岸パレスチナ自治区への入植が国際的な問題として度々ニュースになってきました。2021年10月27日イスラエルはアメリカバイデン政権をはじめとした国際社会の反対を押し切ってさらに入植計画を推し進めることを表明しました。

実はこの背景には2019年にトランプ政権が「イスラエルがヨルダン川西岸で行っている入植活動は国際法違反とは見なさない」と表明したことがきっかけにあるのです。それを受けてこれまで以上にパレスチナ自治区への入植を推し進めてきているイスラエル。イスラエルがヨルダン川西岸パレスチナ自治区に入植地を建設し始めたのは1967年、つまり第三次中東戦争以降に遡ります。なので今回ニュースで報じられている入植地の建設は新しい問題ではなく、これまでに43万人近くのイスラエル人がヨルダン川西岸パレスチナ自治区に建設された入植地で暮らしているのです。そもそも第2次世界大戦後の1949年に発効した国際法のひとつジュネーブ条約では入植活動を違法としています。さらにイスラエルとパレスチナは和平交渉で国境線をどこに引くのか話し合いの最中であるにもかかわらず、話し合いは行われずにどんどんとイスラエルがパレスチナの土地に入植を行っているのです。

イスラエルによる入植活動に関してNHKのウェブサイト「中東解体新書」がとてもわかりやすのでもっと知りたい方はそちらをご覧ください。
seeMEウェブサイトの関連コラムにリンクがあります。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/new-middle-east/jewish-settlements/

さて、今日ご紹介したいアーティストはこの入植問題をユニークに扱っているパレスチナ人アーティストKhaled Jarrarです。1976年出身でパレスチナ自治区ラマッラを拠点に活動する彼はこれまで写真、映像、パフォーマンスなど様々な方法で表現してきたKhaledはイスラエルによるヨルダン川西岸地区の占領を題材に、暴力のジェンダー化された空間や、戦争や政治的紛争を煽って利益を得る経済的・国家的権力のつながりなど、軍国主義社会について扱ってきました。
まだ記憶に新しい2021年5月10日、12日間に及びイスラエル政府はパレスチナ自治区ガザ地区に対する空爆を行い250人以上のパレスチナ人一般市民が命を落としました。seeMEポッドキャストではこの紛争の最中、ガザ地区で暮らしているアーティストMalak Mattarにインタビューを行いました。
Khaled Jarrarはこの紛争が始まって間もなく5月13日にイスラエルによる入植問題を扱った作品「If I don’t steal your home someone else will steal it」を発表しました。

これまで様々な媒体を使って表現いてきたKhaledですが、この作品ではNFTとブロックチェーンを活用してるのです。彼はNFTとブロックチェーンの仕組みをどのように作品「If I don’t steal your home someone else will steal it」”もし私があなたの家を盗まなければ、誰か違う人が盗むでしょう”で活用したのでしょうか?

イスラエルとパレスチナの間で紛争の原因となっているパレスチナの土をNFTプラットフォームOurZoraに出品したのです。パレスチナの土が出品されているOurZoraのウェブサイトがこの作品なのです。
彼はラマッラの家の近くを散歩しているときに、この土地、この土が日々少しずつイスラエルに奪われ、いつしか祖国パレスチナが消えてしまうという悲しみからイスラエルが行っているパレスチナへの植民地主義的不法な行為をもっと世界に知らせるために土を瓶に入れてNFTのプラットフォームで販売しました。OurZoraのウェブサイトでは日々イスラエルによる入植計画が進められているパレスチナのヨルダン川西岸にある村KobraとHibiyaがイスラエルの入植計画で建築される集合住宅によって埋め尽くされる様子を現したデジタル映像が流れます。この作品はブロックチェーンやNFTといったアート界では馴染みのなかった世界とアート活動をつなげる団体SPSKのキュレーションによって作られました。
JarrarとSPSKは今年の6月にパリで開催された仮想通貨などを扱ったデジタルアートが集う第3回クリプトとデジタルアートフェアCADAFに作品State of Palestine Postage StampのNFTバージョンを出品しました。2012年のベルリンビエンナーレに出品したこの作品は実際には存在しないパレスチナ国家による切手なのです。この作品を通してKhaledは国家が存在しなことは実際どういったことなのか具体的な事柄を作品にすることで鑑賞者により実感を持ってもらうことを試みました。ベルリンビエンナーレではこの切手共にパレスチナ国家による架空の出入国スタンプを制作しました。ベルリンビエンナーレでは参加者はパスポートを会場に持っていきアーティストにパレスチナ国家の出入国スタンプを押してもらうイベントも開催されました
この切手はイスタンブールに拠点を置くアート団体DiyalogInEnArtの協力のもとドイツェポストのオリジナルスタンプを作るサービスを活用して実際の切手として使えるものが販売されています。現在も25ユーロで購入できます。アート作品として飾ってもいいし、実際に使うことで架空のパレスチナ国家を現実にさせるための声明表明をしてみるのもいいかもしれません。さらに2020年にはこのスタンプの新しいシリーズThey Even Stole The Rainbowを発表。どちらのシリーズもキタキフサタイヨウチョウ別名パレスチナサンバードという花の蜜を吸う鳥がモチーフになっています。Khaledにとってサンバードは自由の象徴であると話します。日々面積が狭くなる終わりのない刑務所パレスチナ自治区で暮らしているパレスチナ人の存在を今一度世界の人々に考えてほしいと訴える彼は、サンバードが蜜を吸うたびに花粉を運ぶようにこの切手を使ってメッセージを広めたいと話しています。

実は、Khaled Jarrar は1969から2004までアラファト議長のボディーガードを務めていました。2002年にイスラエル軍のスナイパーによって足を怪我してからアーティストになることを決意。以降アーティストに転身してからアートを通して人権問題や平等、自由について考察してきました。彼の作品はパレスチナ問題にとどまりません。2016年にはアメリカに南米からやってくる難民をテーマにした作品を発表するなど人々の自由を求めた移動、人権問題、国境などをグローバルな視点で取り組んでいます。シリアから逃れてきた亡命パレスチナ人家族を追ったドキュメンタリー映画「Displaced in Heaven」で、アラブ芸術文化基金の2017年映画部門一般助成プログラムを受賞しました。

これからの彼の活動が見逃せません!seeMEポッドキャストでは彼へのインタビュー依頼をする予定なので今後のエピソードもお楽しみに。

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