かつて兵士そして戦場画家だった作家が描くイラク

イラクでは大規模な反政府デモの規模が日々拡大しており、報告されるデモ参加者の死者数が増える一方です。

汚職や失業率の高さなどへの不満が募りついには国民の怒りは大きなうねりを起こしました。 ヴェネツィア・ビエンナーレのイラク・パビリオンを主催しているRuya Foundation は命をかけて権利を獲得しようと戦うイラク国民の意思と共鳴するためストライキを決意。ヴェネツィアのイラク・パビリオン及びイラク国内にあるRuya Shopを閉鎖しました。

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ここでは、イラク・パビリオンを代表している作家Serwan Baranの作品を見ていきます。

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TITLE: FATHERLAND
ARTIST: Serwan Baran
CURATOR: Tamara Chalabi and Paolo Colombo

クルド系イラク人のSerwan Baran、Ruya Foundationの創設者でありカリスマと呼ばれたイラクの政治家Ahmed Chalabiを父に持つTamara Chalabi、そしてイスタンブール近代美術館のアートアドバイザーであるPaolo Colomboによる企画FATHERLAND。

クルド系イラク人であるSerwan Baranにとって、イラクはとても複雑な存在です。
現在イラクと呼ばれている国家がこの地域一帯を治める前から彼らクルド人にとってはここがFATHERLANDでした。現在イラクで暮らす多くのクルド人はイラク政府からの独立を望んでいると言われています。

かつてイラク政府の兵士としてイラン・イラク戦争に参加し、湾岸戦争では戦争画家としてイラク政府の望む戦争を描き、そしてイラク代表としてヴェネツィア・ビエンナーレに参加しているSerwan BaranにとってのFATHERLANDとは?
複雑に絡み合う彼のFATHERLANDへの悲願は彼の作品をじっくり見ることで訴えてきます。

作家はこの企画の最も重要な要素としてTHE WITTNESSをあげています。

スーザン・ソンタグ(他者の苦痛へのまなざし)は

写真は現実の証人となる。

そして

戦争の現実のひとコマを突きつける。

と書いていますが、SNSでリアルタイムに世界中の紛争の現場から写真や動画がスマートフォンに届く現代においてSerwan Baranは再び絵画を用いて私たちに何を突きつけるのでしょうか?

THE WITTNESS

イラク・パビリオンのために制作された作品The Last Meal (2019) 食事中に攻撃を受け命を落とした兵士たちの姿。


In the studio: Serwan Baran from Ruya Foundation on Vimeo.

絶え間ぬ紛争、対立、戦争、暴動の目撃者である作家がそれらを描いた時、遠く離れた私たちにも目撃者になることを強制します。 その行為は暴力的であり尚且つ切実な、目撃者が参加者になるために手段であるようにも思えます。

写真の技術が身近になるまで戦争画が戦場の様子を伝達する報道の役割を果たしていました。
しかしカメラが普及すると報道写真が戦争画と置き換えられ、やがて戦場の様子がニュースの時間にお茶の間のテレビで流れては消えてゆくようになりました。

それらは衝撃を与え去って行きます。

一方で、絵の具が何層にも重なり合い層をなしたThe Last Meal (2019)は兵士として戦争に参加したことのある作家自身がこれまでの体験を振り返りそして自己を癒すための儀式の過程を見させられているようで、一過性である衝撃とは違った印象を見るものに与えます。

作品を見た人の記憶に深く食い込み、作家のFATHERLANDで幾度も返されてきた多くの人々の死と別れの証人となります。

THE WAR ARTIST

彼が絵画で戦場を描くことにこだわるのは彼自身がイラン・イラク戦争(1980 – 1988)に兵士として参加し、湾岸戦争(1990 – 1991)では政府に依頼され戦場を描いた経験があるからです。 湾岸戦争ではリアリズムの技法でリアルではない戦争を描いたと語っています。

あれはプロパガンダだった。

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この頃の彼の作品には、プロパガンダとして素直に兵士たちをヒーローに仕立て上げるのではなく、検閲や規制の中でいかに現実を描くか模索した彼なりの答えが見えてくるように感じます。

THE BOAT

最後に紹介するのはこちらのボートの作品The Last General (2018)。 ボートの中で横たわっている白骨化した軍服を着た人物。 胸元につけられた多くのメダルから階級の高い人物であったことが伺えます。

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メソポタミア文明で繁栄したチグリス川とユーフラテス川をあてもなく彷徨う大将を一人乗せたボートは、輝きを失わないメダルだけが頼りに暗闇を進み続けます。 これは指導者が独裁となっていく状態と重なって見えます。 自分の栄光に目がくらみ浮遊する指導者。

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幾度も国の混乱を経験してきた作家だからこそ描けるFATHERLANDの過去へのレクイエム、そして未来への希望の兆しなのでしょうか。