今日お届けする現代アート作品は、レバノン出身の作家ジョアナ・ハッジトマス&ハリール・ジョレイジュのシリーズ作品「ワンダー・ベイルート」です。彼らはこれまでレバノンの紛争にまつわる歴史のリサーチを元に作品を多く作ってきました。さて、今回ご紹介する「ワンダー・ベイルート」はある写真家の写真に着目した作品です。1960年代に「中東地域のパリ」という愛称で多くの環境客を魅了していたレバノンの首都ベイルートは1975年に勃発する内戦により観光客を受け入れていた美しい建造物は次々と破壊されていきました。1960年代にレバノン政府の依頼でベイルートのポストカード写真を撮っていた写真家アブドゥッラー・ファラハは、内戦で彼が撮影してきた建物が破壊されるとそれらのネガフィルムの一部を燃やしました。ジョアナとハリールはそれらのネガフィルムを現像しポストカードを作りました。

美しいベイルートを破壊した内戦は1975年から1990年まで断続的に続きました。しかし現在もレバノンはこれまで同国史上最悪の経済危機に直面し90万人以上が食料を十分に入手できず、多くの子どもたちに餓死の恐れがあると報じられています。経済危機、コロナ、そして2020年8月に起きた200名以上が命を落としたと報じられているベイルート港爆発事故と追い討ちをかけるようにレバノン国民は困難に直面しています。かつて「中東地域のパリ」とも言われたベイルートの変わり果てる姿を題材にしたアート作品「ワンダー・ベイルート」は奇しくも現在進行系のベイルートの姿を投影しているようです。

title: Wonder Beirut (1997-2006)
artist: Joana Hadjithomas & Khalil Joreige

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