中東地域の現代アートシーンは、この15年でどのように変化してきたのでしょうか。

私がFacebookで「アートな中東」という名前で発信を始めたのは、今から約15年前、2012年頃でした。ちょうどその頃、中東では「アラブの春」をはじめ、シリア内戦の勃発、ISISの台頭、イランの抗議運動、そして繰り返されるパレスチナでの戦争と、ニュースを開けば中東の不安定さばかりが強調される時代でした。

イランにルーツを持つ私にとって、その時代に日本で感じていた「中東=暗い、怖い」というイメージは、正直かなり悔しかったです。

色で表すなら“黒”とか“濁った色”ばかりが連想されているように感じていたんです。

でも、本当にそうなんだろうか?って、ずっと引っかかっていて。

戦争や抑圧の中で生きている人たちは、必ずしも政府や国と同じ考えではないし、同じ声を持っているわけでもない。

むしろ、ニュースを通して外には届いていない“もう一つの声”があるんじゃないかと思っていたんです。

それは、私自身がニュースで語られる中東とは違う中東を知っていたから。

特にイランは、私にとってはもっと日常的で、もっと複雑で、もっと色のある場所でした。

でも、その“知っているはずの中東”をどうやって外に伝えればいいのか、ずっとわからなかったのです。

ちょうどその頃、森美術館で開催されていた「アラブエクスプレス展」を訪れました。

あの展示は、今でもはっきりと覚えています。

ニュースとは違う色や表現に驚いたというよりも、

「これなら伝えられるかもしれない」と思った瞬間でした。

言葉では届かないものを、アートなら届けられるかもしれない。

自分が知っている中東の“もう一つの姿”を、別のかたちで見せることができるかもしれない。

そのとき初めて、現代アートという方法と出会った気がしたんです。

あの体験がきっかけで、「もっとこの地域の“今”を伝えたい」と思うようになりました。

伝統工芸の美しさももちろん素晴らしい。でもそれ以上に、同時代を生きる若いアーティストたちの声に触れてほしいと思ったんです。


そして2026年。

あれから15年が経ちました。

中東は変わったのでしょうか。

イスラエルとアラブ諸国の関係を大きく動かした「アブラハム合意」、イラン国内で続く抗議運動、ガザでの大規模な戦争、そしてアフガニスタンでの政権交代。

ニュースだけを見れば、やはり“黒い色”が広がっているようにも感じます。

でもその一方で、この15年で中東のアートシーンは確実に変化しました。

特にUAEを中心に、美術館やアートフェアが次々と誕生し、世界のアートマーケットにおける中東の存在感は確実に高まっています。

かつては周縁にあった中東現代アートが、今ではグローバルな舞台の中心に近づいてきている。

ただ、その変化を見ていて、少し引っかかる感覚もあるんです。

注目されているのは、“作品”というよりも“市場価値”や“国家プロジェクトとしての文化戦略”になっていないか?

アートフェアや美術館が増える一方で、本来そこにあったはずの“個人の声”が、少しずつ見えにくくなっている気もしていて。

私はやっぱり、あの時感じた“生々しい声”を届けたい。

検閲の中で、それでも表現しようとする人たち。

言葉ではなく、イメージでしか語れない感情。

そこにこそ、その地域のリアルがあると信じています。

ここでは、UAEをはじめとするアラブ諸国でのアートフェアや新設美術館、そしてアートマーケットにおける中東現代アートの現在地をたどりながら、私がずっと追い続けてきた「声」を持つアーティストたちにも触れていきたいと思います。

  1. アーティスト主導から国家主導へ
  2. ストリートから世界へ
  3. アートは歴史を書き換えられるのか
  4. AI時代と中東現代アート